「能」と「狂言」の違いとは?特徴や歴史を一覧で比較
日本の伝統芸能である「能」と「狂言」は、いずれも大きな松の木が描かれた能舞台で演じられることで知られており、似ている点が多くあります。能と狂言には、具体的にどのような違いがあるのでしょうか。伝統芸能を鑑賞する際は、前もって両者の違いや見どころを押さえておきたいですね。
本記事では、そんな能と狂言の違いに関する基礎知識をお伝えします。日本の伝統芸能に関心がある方や、これから能や狂言を鑑賞する予定がある方は、ぜひ参考にお読みください。
「能」と「狂言」の関係性
混同されることの多い「能」と「狂言」ですが、どちらも日本の伝統芸能で、深い関係にあります。まずは、能と狂言の関係性から確認してみましょう。
能と狂言は、どちらも日本の大衆向けの伝統芸能である「能楽」の中で演じられます。
能楽は、奈良時代に中国大陸の唐から伝わった「散楽(さんがく)」がルーツだとされています。多様な芸能の要素を併せ持っていた散楽は、時代の流れにともない「猿楽」と呼ばれる滑稽な演劇へと発展しました。猿楽は、やがて歌と舞による芸術的な要素を持つ「能」として大成されます。また、能を上演する際、滑稽なセリフで笑いを誘う「狂言」が合間に演じられるようになると、能と狂言を交互に演じる能楽の形式が成立しました。
このように、現在では能と狂言を含む芸能の総称として「能楽」という言葉が使われています。たとえば、能を演じる役者の「シテ方」や「ワキ方」、楽器を演奏する「囃子方」、狂言を演じる「狂言方」のように、能楽を演じる人は「能楽師」と呼ばれます。なお、能楽は日本の重要無形文化財に指定されているだけでなく、ユネスコ無形文化遺産にも登録されており、世界的に高い価値が認められた伝統芸能です。
「能」と「狂言」の違いとは?
能と狂言は、どちらも能舞台で演じられる芸能であり、似ている点も多くあります。しかし、能では悲劇、狂言では喜劇(笑劇)が描かれる傾向にあるなど、両者の題材には大きな違いがあります。ここでは、能と狂言のさまざまな違いを比較しながら解説します。
能の特徴
能は、華やかな装束と能面を身に付けて演じられるのが特徴です。「謡(うたい)」と呼ばれる歌や、「舞(まい)」と呼ばれる踊り、楽器の演奏によって美しく表現される歌舞劇となっています。また、セリフは「~でそうろう」といった格式高い文語調の言葉が使われます。そんな能で描かれることが多いテーマは、歴史上の人物・事件を描いた物語や、神話などの悲劇です。また、能の作品は現実世界を舞台にした「現在能」と、夢や幻などの架空の世界を舞台にした「夢幻能」に大きく分けられます。
狂言の特徴
狂言は、簡素な装束を身に付け、能面を付けない「直面(ひためん)」で演じられます。セリフには「~でござる」といった口語調の言葉が使われ、登場人物の面白おかしい会話によって、ストーリーが生き生きと描かれます。能と比べるとセリフが多いのが特徴です。また、喜怒哀楽の演技やセリフの聞き取りやすさから、一般的に話の内容を理解しやすい傾向にあります。狂言の作品で描かれることが多いテーマは、多くの人にとって親しみやすい、庶民の日常の出来事です。
<能と狂言の特徴>
能 | 狂言 | |
---|---|---|
テーマ | 歴史上の人物・事件、神話などの悲劇 | 庶民の日常の出来事などの喜劇 |
出演者の衣装 | 華やかな装束と能面 | 簡素な装束と直面 |
セリフ | 「~でそうろう」の文語調 | 「~でござる」の口語調 |
表現の特徴 | 謡や舞による美しい演技 | 観客を笑わせる面白おかしい会話 |
代表的な演目 | 道成寺、鞍馬天狗、安宅、土蜘蛛、葵上など | 三番叟、奈須与市語、萩大名、蝸牛、附子など |
「能」と「狂言」の楽しみ方のポイント
能や狂言は、どんな風に鑑賞すると楽しみが広がるのでしょうか。最後に、それぞれの伝統芸能を鑑賞する上での楽しみ方のポイントをお伝えします。
能の楽しみ方
能を鑑賞する際は、事前に作品のあらすじを確認しておくと話の内容を理解しやすくなります。能ではわずかな動きで深みのある感情が表現されるので、意味がわかるとより豊かに味わえるでしょう。また、能面の表情は角度によって見え方が変わります。座席の位置も重要となるため、初めて観る場合は正面の席がおすすめです。同じ演目を別の席で鑑賞しても楽しめるでしょう。
狂言の楽しみ方
狂言は、言葉のリズムや滑稽な動きなど、見たまま聞いたままに楽しみやすいといえます。また、舞台前に役者による作品の解説が行われるので、直前にあらすじを確認できます。ぜひ気軽に鑑賞してみてください。庶民の日常に起こる面白おかしさは、現代人にも伝わる点が多くあるはずです。登場人物がどのような場所で、どんな動作をしているのか、具体的にイメージしてみると良いでしょう。
能と狂言の違いを押さえて伝統芸能を鑑賞しましょう!
ここまで、能と狂言の違いに関する基礎知識をご紹介しました。能と狂言はどちらも能楽で演じられますが、作品のテーマや表現の特徴など、両者にはさまざまな違いがあります。能楽は日本の重要無形文化財であり、ユネスコ無形文化遺産でもあります。古くから日本に続く伝統芸能の世界を、能楽堂で体感してみてはいかがでしょうか。その際は、今回お伝えした楽しみ方のポイントをぜひお役立てください。