扇子の主な種類|素材、用途、産地、サイズ別の分類と正しい使い方

日常生活から習い事やお祝い事まで、幅広いシーンで使われている扇子。そんな扇子には、多くの種類があります。近年ではご自身でお使いになるほかに、プレゼントやお土産で扇子を贈る方も多いので、選び方をチェックしておきたいですね。この記事では、扇子を購入するときに押さえておくべき、素材・用途・産地・サイズ・柄(デザイン)などの種類をそれぞれ解説します。どんな種類の扇子を選ぶべきか迷ったときは、ぜひ参考にお読みください。

【素材別】扇子の主な種類

扇子の各部分に使われる素材によって、見た目や使用感に違いがあります。こだわりの扇子を選ぶために、素材別に扇子の種類をお伝えします。

紙扇子(かみせんす)

紙扇子とは、扇面に紙が使用された扇子のことです。3枚に貼り合わせた地紙に、扇骨を差し込んで作る製法となっています。一般的な種類の扇子のため、バリエーションが豊富です。お好きな柄やデザイン、サイズを選びやすいのが魅力といえます。扇面に和紙を使用した製品もあります。

生地扇子(きじせんす)

生地扇子は「布扇子」とも呼ばれ、扇面に布地が使用された透け感のある扇子のことです。扇面に用いられる布地は、絹やポリエステルなどさまざまな種類があります。紙扇子とは異なり、扇骨の片面のみに生地を貼って作られるため、一方の面は扇骨が露出した状態になります。[1]

白檀扇子(びゃくだんせんす)

香木の「白檀」から作られた扇子のことです。白檀はサンダルウッドとも呼ばれるインド原産の植物で、木材そのものから香りが漂います。線香の材料としても有名で、甘さのある優しい匂いが特徴です。白檀扇子は香りを楽しめるだけでなく、木材の扇面に施された透かし彫りにも魅力があります。[2]

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檜扇(ひおうぎ)

檜扇とは、薄い檜の板を絹糸で綴じ、要(かなめ)で留めて作られた扇子のことです。紙が貴重であった平安時代に生まれて、宮中で使われていた歴史があります。現代の檜扇も、扇面には華やかな蒔絵があしらわれ紐飾りがつけられるなど、高級な製品が多く見られます。贈答用の室内飾りとしても人気の扇子です。[3]

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【目的別】扇子の主な種類

季節やシーンに応じて複数の扇子を使い分けても良いでしょう。ここでは、扇子の主な種類を目的別にご紹介します。

夏扇子(なつせんす)

夏に用いられる紙扇子や布扇子のことを夏扇子と呼びます。夏扇子は扇いで涼むために使用されるのが特徴です。一般的に扇子と呼ばれているものは、夏扇子を指すことが多いといえるでしょう。なお、紙扇子を夏扇(なつおうぎ)と呼ぶのに対して、木でできた檜扇を冬扇(ふゆおうぎ)と呼ぶこともあります。

飾り扇子(かざりせんす)

飾り扇子とは、室内飾りとして自宅や店舗などの装飾に使われる扇子のことです。扇子を開いた状態で立てかけて飾ります。夏扇子のように扇いで使うことはありません。飾り扇子の扇面には季節の絵柄や縁起物などが描かれており、贈り物のシーンでもよく用いられます。[4]

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舞扇子(まいせんす)

舞扇子は、日本舞踊などの踊りで使われる扇子です。舞扇(まいおうぎ)とも呼ばれます。舞台上で華やかに見せるために金銀の華やかなデザインが多く、両面に同じように絵柄があしらわれているのが特徴です。一般的な扇子よりも骨に厚みがあるなど、丈夫な構造になっている舞扇子もあります。[5]

仕舞扇(しまいせん・しまいおうぎ)

仕舞扇とは、日本の伝統芸能である能や狂言などで使われる扇子のことです。舞台で演じられる役柄や流派によって、仕舞扇の大きさや色柄などには違いがあります。[6]

祝儀扇(しゅうぎせん)

祝儀扇とは、着物の礼装で用いられる扇子のことです。扇子は末広がりの形状をしていることから縁起物とされており、結婚式のような格式高いお祝いの席で小物として用いられます。祝儀扇は親骨が黒塗りで、扇面が金銀であることが一般的です。[7]

茶扇子(ちゃせんす・ちゃおうぎ)

茶扇子は、茶道のお茶席で使われる扇子です。お茶席での挨拶をはじめとして、礼儀を伝えるための小道具として使われ、重要な意味合いを持っています。茶扇子は一般的な夏扇子よりもサイズが小さいのが特徴で、お茶席では扇子を閉じた状態で使用します。[8]

【産地別】扇子の主な種類

日本国内には、扇子の有名な産地が数多く存在します。ここでは、代表的な産地別に扇子の種類をご紹介します。

江戸扇子(東京)

東京の江戸扇子とは、かつて江戸で売られていた扇子のことを指します。デザインは小紋柄や縞模様のほか、動物の絵柄や文字など、シンプルで大胆なものが多い傾向にあります。こうした大胆な柄に合わせて骨数は15本と少なく、親骨は太く作られているのが特徴です。

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京扇子(京都)

京扇子とは、歴史ある京都を中心とした扇子のことです。京都扇子団扇商工協同組合に加盟している工房や販売店のみが、京扇子の名称を使用できます。前述の舞扇子や祝儀扇をはじめとした、さまざまな高級扇子が職人の手仕事によって生み出されています。[9]

名古屋扇子(愛知)

名古屋扇子とは、愛知県の名古屋周辺に発展した産地で作られた扇子のことです。名古屋は京都と並んで扇子の二大産地として知られています。このうち名古屋では、男物の実用品を中心とした扇子が主に生産されているのが特徴です。[10]

近江扇子(滋賀)

近江扇子は、滋賀県の高島で生産された高島扇骨に、地元地域で和紙を貼って仕上げた扇子のことです。高島扇骨は良質の竹から作られ、大部分の工程が職人の手仕事によって成り立っています。これらの扇骨は京都にも出荷され、京扇子にも使われています。[11]

【サイズ別】扇子の主な種類

扇子のサイズには種類があり、扇子によってそれぞれです。扇子の長さは伝統的な単位「寸」で表します。一寸は「約3cm」なので、扇子を閉じた長さが「約21cm」の時は「7寸」と表します。また、「間」とは扇子の骨数を表します。 たとえば骨数が15本の江戸扇子は7.5寸15間(約22cm)です。

他にも、しけびき扇子は7.5寸35間(約22cm)と6.5寸35間(約19.5cm)と大小違うサイズがあります。観弐色渋扇子は8.5寸(約25.5cm)、小千谷縮扇子は7.5寸(約22cm)と6.5寸(約20cm)、絹扇子は7寸(約21cm)、飾り扇子は9.5寸(約28cm)などとさまざまですので、扇子を選ぶ時の参考にしてください。ただ、扇子は一つづつ職人の手作りなので、微妙にサイズが違います。

【柄(デザイン)別】扇子の主な種類

扇子の扇面には、さまざまな絵柄があしらわれています。伝統的な柄の中には、おめでたい意味が込められた文様もあります。おしゃれなデザインを楽しみながら、柄に込められた意味からも扇子を選んでみてはいかがでしょうか。

ひょうたん

ひょうたんは、くびれのある果実や蔓(つる)が特徴的な植物で、おめでたい吉祥文様の一つとして知られています。たくさんの実をつけることから、古くから縁起の良いモチーフとして用いられてきました。また、独特のくびれた果実の形から、邪気を吸い込んで逃さないともいわれています。こうした特徴から、ひょうたん柄には「子孫繁栄」「商売繁盛」「多福」「無病息災」といった意味が込められています。[13]

鮎は日本に生息する淡水魚で、よく川釣りなどでも親しまれている身近な魚の一種です。春になると稚魚が川を上る生態があり、成長にともない川を上る鮎を「上り鮎」と呼びます。激しい水の流れに逆らって川を上ることから、鮎の文様には「出世」の意味が込められており、縁起の良い柄とされています。就職や昇進のお祝いなど、仕事での活躍を祈る贈り物の場面でも用いられる柄です。[14]

力強く走る馬は、古くから人間の暮らしと関係の深い動物です。男児の着物や刀剣をはじめ、さまざまな物に馬の文様があしらわれています。なかでもおめでたい柄として知られるのは、九頭の馬が走る様子を描いた文様です。馬九行駆(=うまくいく)という当て字から、勝負運などの運気を上げる縁起の良い柄として用いられています。また、左を向いた馬の文様は、馬(うま)を逆さに読むことにより(=まう)お祝い事で踊る「舞い」と掛けられ、縁起の良い柄とされています。[15]

竹は日本に多く生息する常緑性の植物です。「竹取物語」をはじめとして、日本の昔話にもよく登場します。一年を通じて緑色をしていることや、中国の伝説の鳥である鳳凰がその実を食べるという言い伝えにより、古くから縁起物とされてきました。そんな竹の柄には「長寿」や「不老不死」などの意味が込められています。また、「松竹梅」のように、他の植物と組み合わせておめでたい柄として用いられることもあります。[16]

鱗(うろこ)

鱗文様とは、複数の三角形が連なるように並んだ柄のことを指します。これは、魚や蛇などの体にある鱗を幾何学文様で表現したものです。鱗文様には、古くから魔除けの力があると信じられてきました。古代から用いられ、鎌倉時代や室町時代には武士の家紋や陣羽織などにも使われています。三角形の形状や大きさには多くのバリエーションがあり、さまざまなデザインの鱗文様が存在します。[17]

とんぼ

とんぼは秋の季語として知られる昆虫で、浴衣では定番の柄としてよく用いられています。大きな長い翅を持ち、真っ直ぐに前進する飛び方をするのが特徴です。そんなとんぼの姿は、勇猛果敢で後退しない意味合いから武士に好まれ、勝利を呼ぶ縁起物として「勝ち虫」と呼ばれるようになりました。また、農作物が実る秋の虫であることから、とんぼの柄には五穀豊穣を祈る意味合いもあります。[18]

青海波(せいかいは)

青海波とは、波打つ海を幾何学文様で表現したものです。複数の扇形を重ねた形状が、繰り返し連なるように並んでいます。世界各地に古くから伝わる文様であり、日本では飛鳥時代に伝わったとされています。雅楽の演目「青海波」の衣装であったことから、この名がつけられました。どこまでも続く穏やかで広い海を表す文様には、未来永劫の平穏や幸せを祈る意味合いが込められています。[19]

扇子の正しい使い方とお手入れ方法

最後に、男女別に扇子の正しい使い方をご紹介します。また、扇子のお手入れ方法についてもお伝えします。お持ちの扇子の魅力を引き出し、できるだけ長持ちさせるために、ぜひ参考にしてみてください。

扇子の持ち方

扇子を持つときは要の部分を握り、親指を一番太い親骨に添えて使用します。手の甲を表側にして、親指以外の4本の指で挟むようにするのがポイントです。正しい持ち方をすると、扇子の魅力を生かして手元を優雅に見せられます。それだけでなく、扇子にかかる負担を抑えて、大切な扇子の寿命を延ばすことにもつながります。こうした実用的な理由からも、扇子はぜひ正しい持ち方でお使いになることを推奨いたします。

扇子の開き方、閉じ方

・扇子の開き方 [20]

扇子を開くときは、まず親骨を上に向けた状態にして、両手で軽く持ちましょう。その際、右手を上から添えて、左手で下から支えます。次に、右手を扇子の要に添えたら、左手の親指を真ん中のあたりに添えて、右側に押し上げるようにして広げていきます。こうして扇面が少し開いたら、両手でゆっくりと広げていきましょう。扇子を長持ちさせるためにも、丁寧に開くことが大切です。また、扇子で扇ぐときは、親骨を支えて扇ぎましょう。中骨に指を添えて扇いでしまうと折れてしまうおそれがあります。

 

・扇子の閉じ方 [21]

扇子を閉じるときは、開いた扇子の親骨を両手で軽く持ち、中骨を一つひとつ手繰り寄せるようにしながら丁寧に畳んでいきます。片手で閉じたり、勢いをつけて一気に閉じたりせずに、開くときと同様にゆっくりと閉じることが扇子を長持ちさせるポイントです。両手を使って丁寧に取り扱いましょう。

扇子のお手入れ方法

扇子を閉じた後は、しめ紙やゴムなどで上部を固定しておくと、型崩れを防ぎやすくなります。また、扇子を持ち運ぶときは扇子袋に入れると安心です。扇面は特にデリケートなため、そのまま鞄に入れると破損のおそれがある点に注意しておきましょう。扇子は種類を問わず水気に弱い傾向にあるので、もしも濡れてしまった場合にはすぐに水分を拭き取り、しっかりと乾燥させてください。

なお、扇子の要の部分は使用しているうちに摩耗しやすいパーツです。万が一壊れてしまったときは、要の修理やお直しを検討されるようおすすめいたします。普段のお手入れ方法に気をつけて、大切な扇子を長持ちさせましょう。

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扇子を使用する際の注意点

・周囲の人に風が当たらないよう配慮する [22]

電車やバスの車内やエレベーター、劇場の座席など、近くにほかの方がいる場所では扇子を使用する際に周りの人への配慮を忘れないようにしましょう。公共の場には、扇子で扇いだ風が当たったり、近くで扇ぐ音がしたりすることを快く思わない方もいらっしゃいます。扇子を使うのに適した場面を見極めるとともに、優雅な扇子にふさわしい所作やマナーを心がけましょう。

 

・バタバタと早く動かさないようにする [23]

扇子で扇ぐときは、ゆったりとした動作を意識すると所作が美しく見えます。その反対に、バタバタと大きく扇子を振ることは避けておきましょう。小刻みな素早い動きは忙しない印象につながるだけでなく、視界に入ると気になってしまう方も少なくありません。公共の場では、強く扇ぐことで近くにいる方に風が当たってしまいやすいので、扇子での扇ぎ方にまで気を配りましょう。


・香りを楽しむときは付け過ぎやTPOに配慮する [24]

扇子の中には、白檀などの香木から作られた、香りを楽しめる製品もあります。また、お持ちの香水を扇子につけて、扇ぐたびに香りを楽しむのも一つの方法です。ただし、公共の場にいるときや、お食事を楽しむ場面では、香りが邪魔になってしまうおそれがあります。このように扇子で香りを楽しむときは、香りの付け過ぎに注意するとともに、TPOに配慮して扇子を使いましょう。


・結婚式の際の注意点 [25]

結婚式のようなお祝い事のときに、黒留袖・色留袖の帯の左胸に挿しておく扇子のことを、末広と言います。末広がりとは、上から下(末)にかけて広がるという意味で、数字の「八」のような形のこと。末が広がるという意で、古くから発展、繁栄に繋がるという意味合いで大変縁起の良いものです。

ただ、末広を使う場合は気をつけなければいけないマナーがあります。扇を広げてあおぐことは、タブーとされています。末広本来の用途は、相手と自分の間に結界を作るための儀礼的なもの。相手と自分の間に結界を作るを言い換えると「相手に礼を尽くす」という意味合いがあります。なので、相手への感謝の意味を込めていることを表すため、末広本来の用途に反する使い方はマナー違反となりますので気をつけましょう。

購入前に種類をチェックして適切な扇子を選びましょう

ここまで、扇子の種類を素材別・目的別・産地別・サイズ別・柄(デザイン)別にご紹介してきました。扇子はご自身でお使いになるだけでなく、お祝いなどのギフトシーンでも人気のアイテムです。多くの種類の中から購入する目的に合わせて、適切な扇子をお選びください。また、扇子は正しい使い方をすることで所作が美しく見えるだけでなく、大切な扇子を長持ちさせることにもつながります。扇子をお使いになる場面によっては、マナーに配慮することも重要です。お伝えした情報を参考に、日常生活で広く扇子をお役立てください。